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説得力皆無である

2013年5月20日 10:41(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記

私の信条として「健康相談を受ける立場である以上、常に健康であれ」という言葉がある。

私の仕事柄、いつも多くのお客様から様々な健康にまつわるお悩みをいただく立場であるが、お客様の気持ちにしてみればやはり健康の悩みを打ち明ける目の前の人間の健康状態は良い方がいいに決まっている。

例えばダイエットの相談をしに薬局に入ったらとんでもない肥満の店主が出てきて「ダイエットの秘訣は生活習慣ですブヒー!」とか言いはじめても何の説得力も無いばかりか「ならまずおまえが試せや」という気分になるのが当然であろう。

それだけに私も日々の健康維持には気を使っているのである。

就寝時刻は毎晩22時。起きる時間は朝5時半。
夕飯は19時までには摂るようにしているし間食の類いは一切しない。
あとは何より抗生物質をはじめとする化学物質は飲まない(そもそも生まれてから飲んだ事が無い)これが一番大事。
さらに週に3〜4日のボクシングとフットサルは欠かさないし職場&家庭のストレスは常に限りなく0に。

これが私なりの健康法なのであるが、それでもやはり体重は5年前と比べると2キロほど増えている。代謝が落ちているというのを実感する。

代謝と説得力という話を書いていて思い出したのが、もう10年以上前になるが、大学生時代のこと。

当時一人暮らしをしていた私、それなりに自炊や食べ物には気を使っていたが、ご多分に漏れずやはり寝る時間が遅かったりと生活習慣が今と比べるとあまり良くなかった。そのせいか一時期抜け毛が増えた時期があり、若さ故に大きな不安を感じ、いわゆる「抜け毛相談」というものに行った事がある。

最近では「抜け毛相談はお医者さんに」みたいなCMがバンバン流れているのでいい迷惑であろうと思うが、当時は抜け毛相談と言えば「アートネイチャー」のような育毛専門企業がその窓口だったわけであり、私が相談に行ったのもまたそういうところであった。今では笑い話であるが当時は結構本気で気にしていたわけである。

一人暮らしをしていたのが東京、武蔵小山というところであったのだが、その近辺にあった育毛専門店を予約し、相談へ。確かこぎれいな雑居ビルの5階あたりにあったと記憶している。

エレベーターを降り、フロアに立つと受付の女性が私を見つけ声をかけてくる。

「17時に予約の杉山様でいらっしゃいますね、どうぞこちらへ」

うながされるままに個室へと通される。
平日の夜だった記憶があるが、いくつかの個室に区切られており、それぞれの個室からは声が聞こえてきていた。かなり盛況なのだな、と感じた印象がある。

「ただいま担当のものがうかがいますのでこちらでしばらくお待ちください」

微笑んで一礼して女性が出て行くとなんとなく手持ち無沙汰な時間と空間が残された。せいぜい時間にして1〜2分程度だったと思うが・・・こんこんとドアがノックされる。

「失礼いたします」
「あ、はいどうぞ」

ドアが開き、中に男性が入ってくる。
年の頃は44〜5歳であろうか?モダンなスーツを着こなし、体格はなかなかに引き締まっていつつもスマートな印象を受ける。ちょっと高めの香水をつけているのもわかった。物腰も柔らかでかなり好印象を与えるのではないだろうか。そして何よりもはげ散らかしていた。



・・食事中であれば間違いなく噴飯していたが、ここという場所において絶対にあってはいけないはげ散らかし方である。前述したプラス要素が全て打ち消された上に店が持っていなくてはいけない「信頼」「効果」というものも軒並み無言で破壊尽くしている。とんでもないメッセージ性である。

「こんにちは 担当の田口(仮名)です」

スマートな笑顔で名刺を渡してくるがもはや名前など頭に入ってこない。ねえ?どういうことなの!?ねえ!と一方的に離縁を突きつけられた女性みたいに胸を叩きながら問いつめたい衝動に駆られる。

「杉山さん、19歳ですって?若いなあ。僕なんてもう来年で三十路ですよ〜」

緊張をほぐそうと軽口を叩いてくるがもはや全てが逆効果でしかない。しかもこれは緊張ではない、困惑である。というか来年三十路?!完全に異次元世界に迷い込んだ気分である。もちろん薄毛の人に罪は無いしそれをどうこういう権利もないのであるが(自分も同じ悩みで相談に来てるのだから)、ここにだけはいてはいけないのである。健康相談に行ったら店主が担架にのって点滴しながら現れるのと同じくらいのインパクトである。

「髪のお悩みなんですね?うーんわかるなあ。僕も経験ありますよ」

しれっと遠い目で過去を振り返りながら現在をスルーし始めたがもはや何をどう突っ込めばいいのか困惑。頭の中に「?!?」のマークが浮かんでは消え続ける。何かアンケートノートみたいなものに字を書き始めるが、冷房が当たるごとに、さきイカのような髪が縦横無尽に風にあおられている。ねえ、お願い、今を見て!今を!!

そして茫然自失の私めがけてだめ押しのこの一言。


「大丈夫!髪のお悩み、僕と一緒に解決して行きましょう!(笑顔でウインク)」






ここにこれ以上いては気が狂うと確信し、「むほっ」と大きく息を吐きながら荷物を抱えて部屋を飛び出してからはや15年。未だにあの日の事を思い出しては店頭に立つ限り私自身は健康でいよう、と思う今日この頃である。

あの店は今もあるのだろうか・・そしてあの店員は・・・。