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その経験、プライスレスである

2013年7月18日 14:54(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記

「旅は道連れ世は情け」、「旅の恥はかきすて」など旅にまつわる言葉は多くある。

旅とは日常から解き放たれた非日常であり、心の洗濯であり、そしてまさにかけがいのない(プライスレス)経験でなくてはいけないと私も思う。

何でこんな事をいきなりほざいているのかと言えば、実は先日、某漢方メーカーさんの依頼で、九州は熊本まで講義をしに行って来たのである。

生来飛行機というものに対し、なぜあんな鉄の塊が飛ぶのか1ミクロンも理解できない私としては交通手段は基本的に鉄道に限定される。とはいっても青春18切符で九州まで行くほど時間に余裕があるわけでもないので九州出張=新幹線の一択になるわけで、そうなると熊本行きという事は初の九州新幹線に(タダで)乗れるヒャッハー!という一大イベントになるわけである。鉄道をこよなく愛する私としては願っても無いお誘いであり、もちろん二つ返事で依頼を受けさせていただいた。

講義自体は日曜であるが、ちょうど土曜日から世間は三連休で浮かれていたという事もあり、私も素知らぬ顔をして土曜日から九州入りをする予定を組んだ。ちなみに店は土曜日も営業しており、後日、大先生が一人で忙しくて死にかけたという噂を聞いたが今、いたって元気そうなので人騒がせな誤報であろう。

さて、私の地元、神奈川から熊本まで時間にして約6時間。こう聞くと「うえええ6時間なんて大変じゃないの?飛行機にすれば・・」とおっしゃる方も多いかと思うがよく考えていただきたい。地元から羽田まで移動し、フライトを待ち、飛行機に乗り、熊本空港から熊本駅直結にある会場となるホテルニューオータニまでの時間を全てトータルすると驚くべき事にほとんど変わらないのである。だとしたらいかがであろうか?ずっとのんびり座っていられる新幹線を選ぶのが人情というものではないだろうか?それでも自分は飛行機であるとのたまう輩はくまもんに蹴られてすり傷でも負えばいい。

と、いうわけで初の九州新幹線にワクワクしながら新横浜から新大阪、そして乗り換えを経て一路、熊本へ。

熊本のホテルにたどり着いた頃にはさすがに日も暮れ始めた夜6時過ぎ。それでも日中の熱気は未だやまず、早過ぎる真夏の到来をこれでもか!と言うくらいに訴えてくる。

暑さから逃げるようにホテルにチェックインし、鍵を受け取り部屋でホッと一息。
新幹線は快適の一言であったがそれでもそれなりの長旅に疲れはある。

さて、落ち着いてみると講義のある大会のスタッフは明日にしか来ないので今日は完全に一人きり。熊本の中心街はどうやらタクシーや都電で少し出ないといけないようで、かつホテルスタッフが言うには「連休の土曜日はどこも予約でふさがっている」とのこと。東京じゃあるまいしわざわざ熊本に来てまで窮屈な思いをするのは嫌なのでフロントに電話して近くに何かこじんまりしていて美味い店は無いかと聞いたところ、「すぐ近所に熊本郷土料理の美味しい店があります」と言うのでではそこの予約を!とお願いして電話を切る。

ほどなくしてフロントより電話。
「すいません今日は混んでいるので予約は無理との事で・・」
ああ、なんということだ。

電話を切ってしばし呆然・・・・
やはり混みまくっている中心街に出て熊本ラーメンでもサッと食って帰ってくるしか無いのか。

何となく諦めきれずに自分でその郷土料理に電話をかけてみる。なんなら少し遅い時間でもいいから・・ということでお願いしてみようと思ったのである。

ツーツーガチャ
何度目かのコールで店員が出る。

「はいもしもし○○(店名)です!」
「あ、もしもし、1名なんですけど予約を取りたいのですが・・」
「はいどうぞ、何時頃がよろしいですか?」
「え?あ、は、はい空いている時間なら早くても遅くてもいいんですけど・・」
「今でも良ければ空いてますよ!」
「じゃあお願いします」
「はい!お待ちしてます!」

ガチャ ツーツー・・・



空いてるじゃねえかこの野郎!


瞬間、くまもんの柄のガスマスク着用してもの凄い勢いでフロントに火炎瓶を投げつけに行こうかと思ったが、せっかく予約も取れたのでこんなところでテロ騒ぎ起こして台無しにするのもなんだしな、と寛大な心で素通りして徒歩1〜2分のところにあるという郷土料理屋へ。・・しかしホントに電話しなかったのかだとしたらなぜなのか全くの謎である。嫌われるにしてももう少しお互いを知り合う時間が欲しいところである。

納得できぬ思いのまま、それでも気を取り直して店へ。

こじんまりとしているながらも活気のある小綺麗なお店である。「いらっしゃい!」という元気な声での出迎えを受ける。予約していた旨を告げ、カウンターへ。「何か熊本らしいものを適当に見繕ってもらっても?」というリクエストに「あいよっ!」と快く返事して下さる店員さん。とても感じのいい店である。

ほどなくして刺身やからし蓮根などがテーブルに並び始める。

普段はあまり焼酎だの日本酒だのをあまり飲む方ではないのだが、それでも地酒というものには興味があるのでこれまたおまかせで熊本の酒をいただいてみたところこれが驚くほどうまい!「おおおおお」と小さく叫びながら肴をつまみつまみ、ちびちび酒を飲んでいたところ。

「おたく、どちらから?」

いきなり隣から声をかけられたのでびっくりして振り向くと60過ぎくらいの優しそうなご夫婦らしき男女がニコニコして自分を見ていたので「神奈川からです」と答えた。

ご夫婦の話によるとお二人は山形からの旅行者で1週間かけて九州の名所をお二人で巡られているとの事。定年後の時間を非常に有意義に使われておられるようで非常に羨ましいお話である。

その後も私の大好きな「おもひでぽろぽろ」の舞台となった紅花の里にお住まいであるとか、漢方や生薬に興味をお持ちであるとかで非常に盛り上がり、「熊本の酒もうまいが山形の酒もうまいぞ!今度遊びに来なさい!」「はい、ご主人!」「馬鹿野郎、お父さんとお呼び!」「はい!お父さん!」「よし!」と名刺を交換した辺りからさらにフィーバーし、3時間半くらい日本酒を飲み続けるハメになった。

最高潮に楽しい!と思いつつ、ふと我に返ると自分は酩酊状態であり、さらに横を見るとご主人がカウンターに突っ伏して撃沈しているカオス状態。結局奥様がご主人を支えてホテルへと戻るとおっしゃるのでそこで再会を願いつつ別れる事に。

そのままふらつく足取りで私もホテルに戻ったあたりから記憶が飛び、ハッ!と目覚めた時にはなんと翌日の11時。危うく講義そのものをプライスレス(台無し)にするところであった。日本酒の破壊力もさることながら旅という開放感もまた恐るべきものである事を痛感した出来事である。



ただ、本当に楽しかった、やはり旅は最高である。
(講義はおかげさまでやり通す事ができたのでご安心を)