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コンセプトを見失うな!である

2013年7月29日 16:28(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記

去年の今頃、東京都の登録販売者協会さんから依頼を受けて「薬業店が生き残って行く為に」という何だか私なんぞが話してもいいのか、とのけぞるようなテーマで講義させていただいた。

その時に「潰れてしまう店」の第一原因として「コンセプト不在」なるものをあげたのである。

どういう事かというと、実は当店の近くになぜか出店しては潰れ、出店しては潰れ、を繰り返す「魔の物件」と呼ばれる店舗スペースがあるのだが、潰れて行く流れが全ての店で気味悪いほど似通っているのである。具体的に言ってみると・・。

例えば、まず「ラーメン店」としてオープンする→開店セール!と大々的に銘打って初日から数日間ラーメン半額!というビラを配りまくる。私に言わせればよほど美味しい店でない限りこの時点でほぼ潰れる可能性は80%を越える。
なぜかと言えば、ラーメン1杯が例えば700円だとしようか。半額オープンセールの初日に350円で食べたものを次回から700円で食う気になるか?と言われれば相当うまいラーメンでない限りはNOであると私は思う。少なくとも私はそうだ。
さらにうがった見方ではあるが「少なくとも原価は350円以下のものなんだな」、という考えになってしまう。

つまり自らの手で自らの料理の質を貶めている事に他ならないのである。

だからどうしても半額にしたいのであればせめて「1杯売るごとに300円赤字!でも食べて欲しい!まずはこの1杯!命、かけてます!!」とでもチラシに大々的に書いておけばいい。その上で美味いものを出せば次回以降もお客は来てくれるかもしれない。しかし基本的に値引きは愚作であると私は思う。本当に自信があるのならばまずは味で勝負して欲しい。翻って言えばそれは漢方屋も同じである。当店は漢方店の中で漢方の価格平均を取るという事が可能であるのなら、決して高い料金設定ではないとは思うが、値引きやセールというイベントも一切行わない。基本価格が暴利をむさぼるようなものでないからなのはもちろんであるが、それ以上に自分の店で出している漢方の価値を落とすような真似はしたくないからである。

飲食店で次回以降に集客を見込みたい!ということであれば餃子の無料券でもつけておけば良いのである。初回からメインの料理を安くするのでなく、サイドメニューであれば次回に使ってみよう、という気になり、次回以降にもついでにこの一品を・・という気にもなるかもしれないし来店効果を高める事につながる。ちなみに当店の場合は季節折々の健康増進アイテムなどの引換券やサンプリングは積極的に行っている。漢方でこんな事ができるんだ、ということを少しでも知って欲しいのと漢方を好きになって欲しいからである。それがいつしか次回の来局につながれば良い。というのが私の考えだ。

ただ安くすれば客が来る、という考え方の店は大抵潰れる。
これはいままで35年間この店(実家である)から魔の物件を見続けて来た私の紛れもない経験から来る実感である。

そういう意味でのコンセプト不在という意味もあるのだが、こういった「最初に安売りをしてしまった店」はセール期間が過ぎた途端にパタッと客が来なくなる。「なぜ!?なぜだ?!」という顔で店主が店の前でタバコをイライラと吸っていたりするのを幾度となく見かけたがこれも私からすれば当然の光景である。そうすると次にどういう行動をとるか。これも悲しいくらいに皆、同じ行動をとるのである。

「更に値段を下げる」のである。

こうなるともはや泥沼である。
自分で考えていた事もできなくなり、客が来ても利益は削られている、そして原価を更に下げる必要がある為に当然味も落ちる。
いつも不思議に思うのであるが、ここで「値段を上げよう」という発想が起きないのであろうか。一瞬、値段を上げる?そんな馬鹿な、と思われるかもしれないが、これこそコンセプトを通す為に必要かつ現状を打破するおそらく数少ない方法の一つであると私は思う。「安ければ来る」という安直極まりない発想ではなく、お客さんに「どんなラーメンを食べて欲しいか」という考えに基づき、原価の高くなるが美味いラーメンを食える、というのを猛烈にアピールするのであれば「ちょっと食ってみようか」という事になる。少なくとも値段が下がったから、と言って食いにくる客よりも遥かにリピートの狙える良い客層の構築につながるのではないかと私は思う。

更に値段を下げた店の行く末はもはや火を見るよりも明らかである。打ち切りの決まった漫画と同じ流れになる。

さらにここで諦めて被害を最小限に食い止めよう、とするある意味潔い店主も数多くいたが、半数くらいは更にこのコンセプトをもの凄い勢いで崩壊させて行く。どういう事かというと・・

ある時、そのラーメン屋の前を通りがかると「化粧品80%オフ!」という手書きの看板と共に店の軒先に見た事も無いような化粧品やバッグ、小物、はては古本?などが並んでいた。俗にいう末期の迷走である。

大抵はこの数日〜数週間後に店は閉まる。

おそらくこうした店の店主が勘違いしているのは、大手の飲食店が値段を下げていられるのはあくまでも凄まじい仕入れ能力をフル回転させた上での企業努力の賜物であり、同じ事を小売店がするのは至難の業と言わざるを得ないのである。要するに味自体を落としては何の意味も無いのである。私自身この魔の物件で迷走したラーメン屋や中華料理店、洋食屋などに幾度となく足を運んだが、値下げ後の味は確実に落ちており、その後にリピートする事は1度としてなかった。

・・その後、数年前から、ついに買い手がつかなくなっていた「魔の物件」であったが、最近新たに飲食店がオープンしていた。今度のお店が末永く続いていかれることを心より願うと共に、今までのお店の辿った末路を教訓として私自ら生かし、当店が「安くて上手い」と思われるような漢方の名店になれるようにまだまだ精進を重ねていこう、と私のような若造なりに、かように心に固く誓った次第である。


もちろん味(腕)が良いのであれば安いのに越した事はないのである。