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余にも奇妙な物語

2014年8月21日 10:19(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記

※今回のお話は照明を暗くしてご覧下さい・・


(稲川淳二風に)
ええ・・私ね。この間 とんでもない体験をしたんですよ。
そりゃあもう、恐ろしい・・ね。


皆さんのお家にも排水管、あるでしょ?そう、洗面所とかお風呂とかにあるあれですよ。それがサ、ある朝にいきなりもの凄い悪臭を放ったりしたら・・どうですか?そう、驚きますよネ・・。うちがまさにそうだったんですよ。

当然何か原因があるわけですから、色々とああでもないこうでもないって家中の人間で考えるわけですよ。その時にうちの家人がネ こう言うわけですよ「昨日来たエアコンクリーニングの業者さんがお風呂場で洗浄してたんだけど」って。

人間ってネ 怖い生き物ですから、そう、それに違いない、そいつが犯人だ!ってなるわけですよ。怖いですよね。
でも私どもなんてのは意気地のない小市民ですんでね、いきなり電話かけて「オマエが犯人だ!」なんて言えませんよ。金田一耕助じゃあるまいし。

だからね どうするかってえとね、外堀を埋め始めるわけですよ。

まずここの家、マンションなんですけどね、その建築元のハウジングに電話を入れるわけです「排水管からとんでもない異臭がしてくる何とかしてくれ」ってな具合にね。

そうしますと先方が「何かお心当たりは・・?」と聞いてくるわけですからここで「ええ、実は・・」ってね、なるわけですよ。小さいでしょう?人間が。

そうなりますとね、向こうさんもそりゃあいい人柱がいるじゃねえかってことで「うーん だとするとその可能性が高いですねえ」とかなんとか言い始めるわけですよ。人間のサガですかねえ 魔女狩りみたいなもんですねこりゃ。

で、ハウジングの後ろ盾、みたいなものをもらって背中を押された感じで今度はそのクリーニング業者さんに電話ですよ。でもね、これがまた凄く感じのいい業者さんでしてね。暑い中汗だくになってうちのエアコン必死に掃除してくれたんですね、しかも格安で。そんないい人に「うちの排水管どうにかしたんじゃねえか?」なんて言えますか?言えませんよね?言えたらあんた、そりゃもう人でなしってヤツですよ。だからね、「先日はお掃除、ありがとうございました。とってもエアコンの効きが良くなって家族一同大喜びです。でね、ちょっとその後から電源入れると異音がするんでちょっと見に来てくれませんかね」

これ、世間で言うと「クズ野郎」って言うんですね。



あ、でも言い訳じゃなく言っておきますとね、この異音も実は本当なんです。本当に本当。嘘だったらそのロウソク全部私に垂らしてもいいですよ、ええ。
でも音が1だとすると悪臭は5億くらいキツいんでね、後回しにしてたんですけど。とりあえず音で見に来てもらって本命は現地で突きつけてやろうってそう言う腹づもりでね、これ言い方変えると「とんだゲス野郎」とも言うんですね。


でね、気のいい業者さん、何とその日のうちに来てくれましてね。
私としては悪臭テロのにっくき犯人なんですけど、またエアコンの部品汗だくになりながら組み立て直してくれてる気のいいおじさんの顔見てますとね、この人がホントにテロ犯なのかな?って疑問にも思うわけですよ。でも家人から「早く本題切り出せこのごくつぶしが」みたいな視線を受け続けてますとね、人は人でいられなくなっちまうんです。怖い話ですよね。

で、勇気を振り絞って悪臭の話をしたんですね。おじさんに。

そしたら「うーん排水っていっても皆さんが普段お風呂のシャワーで使われてるのと同じくらいの水量しか使ってないんですけどねえ・・しかも洗面台は使ってないし・・」と首を傾げながらも洗面所の方に見に来てくれるわけですよ。
ほんとにいい人なんです。テロ犯ですけどね。

洗面所に入るともの凄い悪臭、昨日よりまたひどくなってましてね。これにはさすがのおじさんも「こりゃ・・」と顔を歪ませちまうわけです。私なんか「おえぇぇぇぇっ」って初めて死体みた新米デカみたいになっちまいましてね。え、家人ですか?寝室で涼んでます。怖いですね。

そんな状況にも係らずおじさん、色々と洗面台の周りを見てくれます。実行犯のくせに、っていう気持ちがありますがこの献身的な態度には心が揺れちまいます。「トラップの封水もあるし・・防臭キャップもずれてないし・・しかしこの悪臭は・・」などとブツブツ言いながら洗面台の戸棚を開け閉めしてるわけですよ。盗人猛々しいとはこの事です、ってな具合に私ときたらあまりの悪臭で頭もおかしくなっちまってたんでしょうね、もうこの場で拘束しちまうかコイツとか思い始めてるんですよね。

そしたらね このおじさん、怪訝な顔で戸棚の中からなんだかビニール袋を1つ取り出すんですよね。

「あの・・これだと思うんですけど」
「え?」
「これ、凄い臭いです。何か中で腐ってますね」


よくよく見てみると・・・中にはたっくさんの貝がらが入ってるじゃないですか・・。ここで記憶がブチ上がるわけです。うちの娘がこの前江ノ島の海岸で貝がらを拾いまくっていたこと。そして「生きてる貝もたくさんいたよ!」って言っていた事・・それと・・家人が・・「洗った貝殻?なら大丈夫ね しまっとくわ」と呟いていた事・・そして全てを忘れていたその翌日にこの業者さんがお出でになられたということ。




完全に腐敗しきって腐臭をまき散らすビニール袋を手に「原因が分かって良かったですね!」と自分のことのように笑顔を浮かべてくれる業者のおじさんの一挙一動が私の心をえぐるんですね、とんだテロ犯はなんてこたあないこの一家だったわけです。



怖いですね 怖いですね 怖いですね。