T(棚卸し)の悲劇
2015年7月 2日 15:42(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記
当店は漢方薬局ですので少々普通の調剤薬局さんやドラッグストアさんとは違う業務形態なのはご存知の通りですが、それでも決算月後にはやはり「棚卸し」なんてぇものがございます。
数百種以上の漢方製剤や一般薬などを一つずつリストアップしては在庫の量をちまちまと記載していくというなんとも地味な作業を行っていくわけなんですが・・こういう作業が私、とても苦手です。なんというか生産性がないじゃないですか!世間ではこんな状態を「面倒臭がり」とか呼んで批判するようですがこんなのはメイドロボットにでもやらせとけばいいんですよ!
・・というわけでメイドロボットがいないので自分で数える羽目になるわけですが、ええいもう面倒臭い!やってられない!面白くない!
・・・幸いなことに次の予約のお客様が来るまで30分ほどあります。せめて心踊るBGMでもかけるべ、とスマホをスピーカーにつなぎ内部に保存してある音楽をかけます。
徳永英明がカバーしている「時の流れに身をまかせ」がかかりました。なんかすごいとこ来たな。
せまっくるしい調剤室の中で結構な音量で徳永英明のクリアなボイスが流れ始めます。
やはり何と言っても原曲が名曲です。聞いているうちにテンションが上がります。思わず口ずさみます。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふふ〜〜ん(←時の流れに〜の部分)」
「ふふふんふんふんふんふんふんふふ〜ん ふふふーふーん ふんふんふんふんふふん(←その後の部分)」
この辺になるとクライマックスですので目をつぶって熱唱モードに入ります。
「ふふふーふーん ふふふふふんふふーんふふーーん ふふふんふんふんふんふんふんふんふふーーーん(↑一度の人生〜の部分)」
クライマーーーーーックス!!
「だぁかららぁ おおねぇがいぃぃぃ〜 そばぁにぃおいてぇねぇぇぇっええ〜いぃまぁはぁあぁなぁたぁしかぁ あいぃせぬぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜」
目をきつく閉じてコブシをきかせて体をひねりながらぷるぷると小刻みに振動しつつ最後の歌詞をしぼり出します。
「ぷはぁあああああ いやあ名曲だ!スッキリ!」
やり遂げた達成感でいつの間にか放り出していた棚卸し表を拾い上げようとふと目線を調剤室の外にやるとお客様がおられました。
お客様「あ・・こ、こんにちは」
私「あ・・・こ、こんにちは」
目を逸らしたまま軽い笑顔を浮かべてくれてはおりますがどうしてくれんだよこの空気と言わんばかりのオーラをビシビシと感じます。廃刀令の前であれば有無を言わさず頚動脈をカッ斬りにきているところでしょう。
お客様「ごめんなさい・・その・・少し早めに着いてしまって・・」
私「あ、い、いえ・・いいんです。いいんですよ。僕は・・」
お客様「・・・・・・・・・」
どうすればいいんでしょう、お客様に鈍器を手渡せば全て解決するのでしょうか。
お客様「あの・・お好きなんですか?」
私「え?」
お客様「えっと・・美空ひばり」
あ、お客様そっち押しちゃう?
私としてはもう何事もなかったような顔で「いかがでしたか、この一ヶ月の体調は」とか言いたいところなんですが。
お客様、そっちは行っちゃダメだ、無限地獄だ。
しかも美空ひばりじゃないよ!テレサテンだよ!!
私「ええ・・まあ・・でもいまのは徳永英明バージョンでね・・」
お客様「あ、そうなんだ・・」
私「ええ、そうなんですよ・・・」
お客様「へぇ・・ははは」
私「ええ・・ふふ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
私もこういう仕事をしておりますのでお客様との会話のキャッチボールは割合に得意としている自負を持っておりますがなんでしょう。全裸で思いっきり近距離から鉄球を急所に全力で叩きつけあっている気分でした。
今日は皆様にお願いがあります。
現在大変にご相談が混み合っております。その際にあまりお早いお時間にお出でいただきますと急かされるようなお気持ちになってしまわれ、前のご相談のお客様がお話をしにくくなったりすることがございます。あとたまに熱唱しているスタッフと遭遇する奇跡に見舞われる恐れがございます。
どうかご来局はご予約時間に近いお時間にてお出で下さいますようお願い申し上げます。
杉山卓也