家出のドビッシュワゥアー
2017年7月 6日 15:42(できる限り)毎日更新 乱れ書き日記
その日 惨劇は夜に起きた。
昼間の仕事にかなり疲れを感じ、ようやく帰宅するも妻は子供の習い事の送り迎えのために不在。
家には誰も私の帰りを待っていてくれる人はおらず、やや寂しい気持ちを感じるも、つかの間の自由な時間を謳歌できると前向きに思考を変換することにする。
そう言えば先日、友人から頂いた評判の良い赤ワインをセラーに入れていたことを思い出し、この疲れを適量のアルコールで癒やすのもたまには良いのでは、と「素晴らしい」と定評の味に期待を寄せつつ、上気する気持ちを胸に大切に寝かせていたワインを取り出してきた。
キッチンに入りワインオープナーを探すがいつもの定位置である引き出しに入っておらず少し怪訝に思い少し視線を広くしてみたところ、なぜだか流しの中に放り投げられたかのような格好でぽつんとたたずむ白いオープナーを発見。
子どもたちが遊んだのだろうかと思いながらもワインの味に対する興味がそれに勝り、いそいそとワインの口にあるコルクにオープナーの先端を当て、ぐいっとオープナーの取っ手を回転させボキン
もげた。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!なんなんだよ畜生が!!!!!!!!!!!!!せっかくここまでハードボイルド調に文書書いてきたのにふざけんじゃねええええええええええええええええええええええええええええ!!!
数回転床に転がって「やだいやだい!」ジタバタしてから早速スマホを取り出しツイッターに写真を掲載し「この状態からのリカバリー案求む」とツイート。
しかしいくらツイッターと言えどそうそう暇人が私の訴えを見てくれているわけでもないだろうにここは自分で解決法を模索せねば、と早速Yahoo!知恵袋を開き調べましたところ、「オープナーが家にもうないなら引き抜くことが無理。しかし実はコルクは押し込むことは意外と容易いので中に押し込んでからコルクかすを濾し取りながら飲むのも一興」という素敵な知恵を発見しました。うむ、これだ!
そこでまずは突き刺さったままのオープナーの先端を逆回転でゆっくりと回すとこれは思ったより楽にスポンと引き抜くことができました。
後はコルクの中心に情けなく穴が開いている状態になりましたがここにドライバーを押し当てて押し込めば飲むことができそうです。さすがに簡単に飲めると考えていただけに喉の渇きもひとしおで、早く!早く!と内なる声に押されつつもあれ?そう言えばドライバーどこにあったっけな?
家のパントリーの中から数年ぶりに工具箱を引っ張り出してくる羽目になりました。
たかがワイン一本のためにこの労力・・とほほ
ガチャリと工具箱を開くと数年ぶりに日の目を見た工具たちからほんのりホコリの臭いが立ち込めてきます。そんな中から黒い取っ手のついたドライバーを見つけ出し、いざワインに突貫!ということで取っ手をにぎrふぁさっ
ドライバーの取っ手が音もなく崩れ去りました。
えええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!?!?
経年劣化というレベルではありません。握った瞬間に砂化しました。一瞬巨人族にでもなったのかと錯覚しましたが、永遠の若さを誇っているハリウッド映画の冒険者のラスボスが陽の光を浴びた途端に長いこと留めていた時間が一気に経過して骸骨になるのと同じ原理であろうと自分なりに理解します。
もうなんかこの時点で色々と諦めの局地の気持ちも湧き始めていましたが、ここまで頑張ったしなんか砂化したドライバーしか残らないこの状況も何だか切ないしやることは最後までやらねば!男の子だもの!ということで取っ手がなくなったドライバーにタオルを巻き付けて、静かに、そして深くコルクに力を込めて・・・あ、あれ?スッと落ちるんじゃないのか・・?意外と硬・・うぬ?うぬぬぬぬぬぬぬ うごおおおおおおおおおおおおお なんだこのコルク野郎!人間様に逆らってんじゃねえぞ!うぐぐぐぐぐぬぬぬぬぬうぬぬぬ 燃えろ!俺の小宇宙よ!!!うああああああああああああああああああああああああああああドビュッシー!!!
次の瞬間、込めていた力がいきなり消失したかと思うと同時に何かが勢い良く顔に飛び散り、視界が真っ赤に染まりました。
何が起こったのか理解するまでにおおよそ1秒。コルクが豪快に瓶底に叩き落ち、その反動で赤ワインが盛大にぶちまけられました。
努めて冷静を装いながら顔全体に飛び散った甘苦く赤い液体をゆっくりと拭い落とすと状況の把握を開始します。
まず買ったばかりのTシャツに2秒前まで見たことのない模様が追加されています。
これは個人的にお気に入りのTシャツだったので大変なショックでしたが、周囲を見回すに連れて恐ろしい現実にそれどころではなくなります。
テーブルはもちろん、床のカーペットに至るまで赤いシミが飛び散りまくっています。
ご丁寧に天井を見上げますとこちらにも元気よく赤い液体が踊りまくっております。
この光景にふとかまいたちの夜でロッヂにいた全員が虐殺されたバッドエンドを思い出しましたがこの状態でうちの家人が帰ってくるとそれ以上のバッドエンドが私に待ち構えていることは確実です。
あ、わかりにくいですか?そうですよね。
皆様おなじみの言葉に置き換えますと虐殺されます。
もはやどうしたらいいかわからずツイッターを見ると優しい皆様からのコメントが多数寄せられています。
焼酎で洗う、白ワインをふりかける、酸素系漂白剤で落とす、塩をまくなど様々なご意見があり、虐殺間近の私の心に温かいものが流れ込む感じでした。
結果として赤ワインを頭からふりかけて死んだふりしてやり過ごそうかと思いましたがそのまま頭をワイン瓶で割られる可能性のほうが高くなるので帰ってきた家人に土下座して許しを乞いましたが「もう二度としないでね」と無表情のまま笑った家人がフリーザよりも怖かったです。
みんな、ワインオープナーは家に最低2本。
タクヤ先生との約束だ。